ディレクターメッセージ

コンセプト:ひらく

1917年、フランス人のアーティスト、マルセル・デュシャンは既製の男性用便器を横倒しにした『泉』という作品を発表した。 後日、デュシャンは『泉』について以下の様に言及している。

「自分の手で『泉』を制作したかどうかは重要ではない。それを選んだのだ。日用品を選び、それを新しい主題と観点のもと、その有用性が消失するようにした。そのオブジェについての新しい思考を創造したのだ」

ありふれた既製品に、新しい見方を与え、それによって、そのもの自体ではなく、それ以外の周りの環境について言及が始まっていくこの作品は、今もなお、芸術家たちに「デュシャン以降、何ができるのか」という命題に直面させ、それに応えるべく多くの作品が生まれ続けている。

本事業はトイレ空間のみを会場とするアートプロジェクトである。都市空間の中、それぞれの窓の内側には別の時間が流れているように、街の奥深く、様々な場所で、その空間ごとにバラバラな箱庭的な世界が広がっている状態。それは、全世界どこでも決まった 振り付けがなされたトイレに、ほんの少し別の要素を持ち込み、想像力という泉が湧き出てくる舞台へと昇華させること。同時にそれらのトイレを道標として位置付け、新たなナビゲートの仕組みを造成し、街のもう一つの歩き方=読み解き方を提唱したい。 公共空間の中ほとんど唯一プライベートな密室であり続けるトイレが、アートによってひらかれる。 それは街の可能性がひらかれる第一歩となるだろう。

おおいたトイレンナーレ 2015
総合ディレクター 山出淳也